当アトリエでのオーダーメイドジュエリー製作には、お手持ちのストーン(石)を加工させていただくオプションがあります。こちらのオプションに関する注釈として《硬度の低い石》との文言がありますが、宝石の硬度とはどのようなものでしょうか?
ここでは、宝石の硬度を考えることで何が解るのかご説明します。
少し長いので、ご興味ある部分からお読みください。
このページの内容
●モース硬度
●靱性
●モース硬度7が基準
●靱性について
●ジュエリーの仕立てやすさ
●難しい石はどうしたらジュエリーに仕立ててもらえるか
●当アトリエのご対応について
硬度とは、その名の通り物質の硬さを客観的に知る数値です。
その中でも、一般的に宝石の硬さを知る目安として、モース硬度なる数値があるのでここにご紹介します。
モース硬度は10段階に区別され、硬度10が最も堅く、数字が少なくなるほど柔らかくなります。
大まかに硬度ごとに宝石を当てはめたのが下の表です。
モース硬度 | 石 |
10(最も硬い) | ダイヤモンド |
9 | コランダム(サファイア) |
8 | トパーズ |
7 | 石英(クオーツ(水晶)) |
6 | ラピスラズリ、ターコイズ、オーソクレイズ、ムーンストーン、オパール |
5 | アパタイト、オブシディアン、スミソナイト、ヘミモルファイト、モルダバイト |
4 | 蛍石フローライト、マラカイト |
3 | 大理石(カルサイト) |
2 | 石膏、アンバー(琥珀) |
1(最も柔らかい) | 滑石(タルク)、磁器 |
硬さと一言で言っても、実はいろいろな硬さの尺度があります。
宝石の硬さを現すときによく用いられるモース硬度は、傷が付きやすいか付きにくいかを現す数値だということです。
靱性
「地球上で最も固い天然の鉱物はダイヤモンドである」という言い方は、よく耳にされると思いますが、ここでモース硬度に照らし合わせてみると確かに、ダイヤモンドは最も硬度が高いとされていますが、別の尺度で見ると、意外とダイヤモンドは硬いとは言えない側面があります。
例えば「靱性(粒子同士の結びつきの強さ)」でいえばダイヤはルビーに劣ることが解ります。
以下は靱性を宝石に当てはめた表になります。
靭性 | 宝石名 |
8(↑強い) | ルビー、サファイヤ、翡翠 |
7.5 | ダイヤモンド、石英、アクアマリン |
6 | ペリドット |
5.5 | エメラルド |
5 | トパーズ、ムーンストーン |
3.5(↓弱い) | アパタイト |
靱性が低いと衝撃に弱く、モース硬度が高い石でも落としたり投げたりすると簡単に割れてしまう恐れがあります。
ですが靱性が高くとも、たまたま石の結晶の方向に衝撃を受けたり、元から内部亀裂があったりすれば意外ともろく割れてしまうこともあります。
モース硬度7が基準
数値1~10までの10段階で表されるモース硬度ですが、この中で7の水晶(クオーツ)を基準とする考え方があります。
簡単にいいますと、水晶よりモース硬度の高いものを「硬い」、水晶より低いものを「柔らかい」と判断すると言う考え方です。非常にざっくりしていますね。。。
実は水晶の成分であるケイ素という分子は、気体として空気中に多量に存在しています。
つまり、水晶は目に見えない形でそこここに存在しているとも言えます。
すると何が起きるかというと、宝石として研磨された美しいクオーツも、空気中のケイ素に触れる事でいつの間にか表面が摩耗されて曇りが生じてしまうのです。
硬度が7以下の石においてこのような現象が起きます。
一方、硬度が8以上の宝石に関しては、ケイ素程度では簡単には摩耗しにくく、経年によっても輝きが失われにくいのです。
ダイヤ、サファイア、エメラルドなど、モース硬度が高いというのは、いつまでも美しさが保たれる、とも言えるかもしれません。
靱性について
靱性の「靱」という字は柔らかいとか、しなやかなどの意味があります。
筋肉と骨の間にある靱帯という物質の名称にも使われていますね。
靱性が硬さの尺度となるのは、鉱物の粒子同士の結びつきの強さに関係しているからです。
表の中の翡翠を見てください。靱性が8と言う非常に高い数値を持つのですが、モース硬度に関しては6.5、と、低く計測されています。
これらを統合すると、翡翠は傷が付きやすいけれど、衝撃に強い、という性質があることがわかります。つまり、彫刻がしやすく割れにくい石、といえます。昔から翡翠にカービングを施した作品が多数ありますが、そういった性質があるからなのです。
ジュエリーの仕立てやすさ
ジュエリー業界は分業制度がはっきりしています。
デザインから最終の仕上げまで、ジュエリー製作にはいくつもの特殊技術が必要とされるため、それぞれのエキスパートが技術ごとに存在します。
その中でも石留職人の仕事は、貴金属で作られたジュエリー枠の中に宝石を留め付ける専門家で、最も難易度の高い技術を必要とする職種でもあります。
そんな高等技術を持ち、かつ百戦錬磨といわれるような石留職人に仕事を依頼しますと、たいていの場合は石を選びます。
つまり、仕事として請け負う石はある程度限定していて、仕事の依頼があれば、やる、やらない、をはっきりと意思表示されます。
こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが、失敗をしない職人は、失敗する可能性を前もって回避しているものです。
仕事を受ける、受けないの判断基準は、割れる可能性のある石であるかどうかといえます。
どういった石が割れる可能性を持つかというと、最初から欠け、傷がある石、内部にクラックルなどが存在する石、そしてモース硬度の低い石などです。
例を挙げるならば、アパタイト、一部のトルマリン、フローライト、モルダバイト、傷があるタンザナイトやエメラルドなどなど・・。
正体が不確かな石も嫌われがちです。
逆に、何も問題なく引き受けてもらえる石はダイヤモンド、ルビー、サファイアなど。
ちょっと首をかしげながら観察してOKをもらえるのはモース硬度6ぐらいのムーンストーンやオパールぐらいまで。
トルマリンも状態次第で大丈夫です。
ほぼNGとなるのは5以下のアパタイト、フローライトなど。
ガラスももろいですからほぼ無理です。
それらは色がきれい、安価であり、ジュエリーに仕立てたらどんなに素敵だろうか、と思い、つい買ってしまう事もあるかと思いますが、実際にジュエリーショップにこれらの石が並んでいないのは、石留が困難だからという理由があるからなのです。
結論を言いますと、職人が見て割れそうな石は、石留を引き受けてもらうのが難しい、ということです。
難しい石はどうしたらジュエリーに仕立ててもらえるか
ジュエリーに仕立てたい石がありましたら、以上の条件が当てはまるかどうかをご自分でご覧になってください。
結果「もしかしたらダメかも」と思われましたら・・・。
とりあえずジュエリーショップでご相談ください。
ご相談段階で料金が発生することはまず無いでしょう。
石が割れやすい、石留にリスクがある、そういったことが解っていらっしゃるお客様でしたら、お断りされる可能性は少ないはずです。
場合によっては念書が必要になるかもしれませんが、心の広い職人がきっと味方になってくれるでしょう。
当アトリエでのご対応
当アトリエでは、お客様のお気持ちに沿ったジュエリー製作をさせていただくために、ストーンのお持ち込みも承っています。
すると上記のような、(石留の)難しい(リスクのある)宝石をお持ち込みいただく事もあります。
私はできるだけお断りすること無く、お仕立てさせていただきたいと思っています。
そのため、ジュエリーをお持ち込みされる方には、お預り金(500円~)をいただくようにいたしました。
お預り金は、万が一、石留作業で石が割れたり欠けたりしたときの保証金となります。
お預かり金は500円~5、000円で、1、000円~10、000円の保証とさせていただきます。
(それでもどうしても無理と言わざるを得ない石もありますので、その場合はどうぞご容赦ください。)
宝石を石留するリスクとお預り金について十分にご理解いただき、その後、宝石を当方に託したいと思っていただけましたら、どうぞお問合せからご連絡をください。
誠心誠意を持って石をお預かりし、最大限の注意を払って製作させていただきます。