硬い金属を手作業で緻密に成型してジュエリーにしていきます。
私たちが扱う金属は、金、銀、プラチナといった貴金属と、その他に銅や真鍮などです。
これらの金属を簡単に曲げ伸ばしできるように、最初の工程で金属を柔らかくしていきます。
その方法を解説します。
金属の硬化と軟化
金属とは硬いものである、とだれもが思います。
ところが、ある方法を施すと硬いと思われる金属が柔らかくなります。
どれくらい柔らかくなるかというと・・・。
例えば、2ミリ×4ミリ×120ミリの銀の角棒を、ぐっと力を入れると素手でUの字に曲げることができるくらいに柔らかくなります。
多分、ステンレスのスプーンを曲げるより少し楽ではないかと思います。
(ジュエリーを作る時、実際にはこうやって素手で曲げることはほとんどありません。
たいていはヤットコ(ペンチ)などを使って曲げていくので、素手より力はいりませんし、細かい成型も可能です。)
金属を柔らかくするその方法は、バーナー等で真っ赤になるくらいに高熱を加えて、急冷させるのです。
こうやって金属を軟化させることを焼きなましと言います。
ですが、焼きなましして柔らかくなった金属も、数度、曲げたりたたいたりすることで、だんだん硬化していきます。
焼きなまし
焼きなましを詳しくご説明しましょう。
対象にする金属にバーナーの火を当てます。
大きさにもよりますが、みるみると金属が赤く変色していくのがわかります。
銀の場合は、全体がうっすらピンク色になってきたくらいで火を止めます。
真っ赤になるまで日を当て続けると溶けてしまうので、そうなる前に引かなければいけません。
この状態では素手で触るとやけどしますから、ピンセット等でつまんでサッと水に入れて急冷します。
これだけで焼きなましは終わりです。
焼きなましの理屈は、高熱を当てることで金属を構成する粒子の配列が整うからと言われています。
本来のあるべき配列に規則正しく並ぶことで、一次的な変形に対して粒子配列が素直に従ってくれるのです。
そのため、少しの力で変形させることができるのです。
ですが、2次変形以降になると配列もあやふやになり、粒子同士がグループ化したり、ばらばらにちらばったりして、外部からの圧力に対して素直に従うことができなくなってきます。
つまり、最初にかけた力では、自在に変形させることができなくなってくるのです。
それを無理に曲げ伸ばしすると、ひびが入って折れてしまいます。
そのため、繰り返し曲げ伸ばしをして複雑な加工をするためには、途中何度も焼きなましを行う必要があるのです。
自然な軟化
ところが焼きなましをしないでも、金属は自然に柔らかくなることがあります。
どういったときにそのようになるのでしょうか?
完成させたジュエリーを長期間放置すると、金属は軟化するといわれています。
ジュエリーを作るために曲げ伸ばしをし、叩き、削り、磨き、完成させるまでに、幾度となく圧が加えられて、金属はどんどん硬化していきます。
そしてお客様のお手元に届くころは、品物はしっかり引き締まった状態になっています。
そのジュエリーは、適度に出したり、しまったり、身に着けたりを繰り返していただいている間は問題はないのですが、何かの理由で引き出しの奥にでもしまわれて、そのまま何年も、場合によっては何十年もの間放置されていたら、自然に軟化してしまうのです。
長年の間に粒子の配列がもとに戻るからといわれているのです。
大切なジュエリーの保存方法
私の経験ですが、母が若いころに身に着けていたK18のイヤリングを、数十年ぶりに取り出してつけてみようとしたら、イヤークリップを広げようとしただけで壊してしまったことがあります。
これも劣化というより、自然な軟化により壊れやすくなっていたからではないかと思います。
ジュエリーは使っている間は壊れにくく、しばらく使わなくなってしまうと壊れやすくなるものです。
大切なジュエリーは、身に着けない時期が来ることがあっても、ときどき取り出して眺めたりしていただくだけでもよいので、完全な放置は避けてほしいなと思います。